FXSEがどのような過程で作られたか、「予測と分析に至る道」をご案内します。
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第6章 その他の要素(1) 信用収縮と外国投資

今まで、為替相場に影響を与える2大要素「投機」と「実需」について解説いたしました。では、それ以外の要素はどうなるでしょうか?
・信用収縮による強制清算
・保険会社・年金運用のオープン外債・外国株投資
・政府機関による為替介入
これらについても検討を行っておりますので、AnalyticsSystemsの見解をご紹介します。

【信用収縮による強制清算】

1998年のLTCM破綻や、2008年のベア・スターンズにはじまる一連の破綻劇、その過程では資金繰り悪化・レポ借入の買い戻し不能が連鎖して、金融機関全体が大混乱に陥りました。その結果、ファンド・投資商品が強制清算を余儀なくされて、為替相場も乱高下し、最終的には一気に円高になったという事がありました。

「信用収縮が発生するかどうか・発生しているか」はFXSEの持つ情報では予測不可能ですが、強制清算するにも元の投機ポジションがなければなりませんので、以下の状況かどうか確認することで、おおよその予測は可能ではないかと考えております。
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投機ポジションを見て、円安方向に溜まっていれば、その解消で円高になる。
リーマン・ブラザーズ破綻時などの様に「金融機関の救済策が遅くなった・講じられなかった」場合、混乱に乗じた円高投機が始まるので、円安ポジション解消分以上に円高になる。

リーマンショック

リーマン・ブラザーズの破綻直後、当時のヘンリー・ポールソン財務長官(元ゴールドマン・サックスCEO)が金融安定化法の必要性を説いたものの、最初の議会採決(9月28日)で否決され2008年9月末を迎えます。その後10月3日に可決されたものの時すでに遅し、最初の否決時点から大混乱が発生していました。
当時の記憶を思い返すと、最初の否決までは確かに乱高下していましたが一部強制清算に留まっていて、まだどこか安心感(どうせ一部の話、少し過ぎれば元通りだろう)がありました。ところが法案が否決され先が見えない状態になって、本格的な崩壊(乱高下ではなく一方的な強制投げ売り・狼狽売りの連鎖)になったと記憶しています。
あの時は青ざめた顔でロイターのヘッドラインを見続けました・・・

【保険会社・年金運用のオープン外債・外国株投資】

保険会社の運用に伴う外債投資、それも為替ヘッジしていないものは「オープン外債投資」と呼ばれ、為替相場に影響を及ぼします。為替ヘッジをしていない外国株式投資も同様です。
投資の開始時と終了時の2回、影響を及ぼすことになります。

投資の開始時点ですが、たしかに影響は観測されるものの大体は実需・投機と同じ方向であることが多くなっていますので、方向は変わらないが幅が大きくなる「増幅効果」として現れます。ですので、実需と投機に基づく為替予測でも、「投資開始」の方はほとんどのケースで大丈夫であると考えています。

では、投資の終了時はどうでしょうか。これも、運用の一環としてオープン外債投資を終了する場合、実需・投機と同じ方向の動きをする場合が多くなっています。円の先高観や、金利差縮小によって投資を終了する事が多いからです。ですので、平時であれば「投資終了」も実需・投機予測通りとなりFXSEの予測で問題ないといえます。

ところが、「投資終了」が実需・投機予測と全く異なる動きをすることがあります。
それは、「災害の発生で保険金を支払うため、取り崩しが必要にあった場合」です。

地震災害などで工場が使えない状態になり、再建が必要になった場合、その建て直し用に以下の動きが観測されました。

①当年中に、取り崩しが発生
(保険金支払い用の手当てと、取り急ぎ経費支払い用資金の手当て)
②翌年、経営方針が決まり、工場再建や清算等が行われる過程で円転が発生
(海外プール余剰金の円転、または外資系企業による資金補填、損害確定による保険金支払手当て)

当年と翌年の2年に渡って影響が出る事が多い様です。これは取り急ぎ資金を手当てする・保険金支払い準備を行う期間と、被害状況を特定して今後の再建計画を策定する期間が2年に渡るためと想定されます。

「災害発生時の取り崩し」はFXSEの持つ情報では予測不可能ですが、以下の状況かどうか確認することで、おおよその予測は可能ではないかと考えております。
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被害の発生状況を見て、①かなりの広範囲で、②工場が多く含まれ、③完全に操業不能に陥っている、この①~③が揃った場合のみ、発生当年と翌年の2年に渡って影響が出る。
(影響:日本が被災した場合は円高)
※保険金だけではなく企業の資金手当てによる円転も同時に発生しています。

東日本大震災

上記の様な「震災後に円高になる」状況は、2011年の東日本大震災で海岸沿いの工場が軒並み被害を受けた、その再建の過程で観察されました。しかし、その後の震災ではここまでの円転需要は正直発生していません。
つまり、かなりの広範囲で工場が使えなくなるレベルまで被災しないと発生しない現象と考えられます。